YahooやGoogleで検索すると、日本の特許庁や、アメリカ特許庁、3極特許庁会合の関連記事がヒットしますが、まだまだ馴染みの少ない言葉であります。
特許審査におけるサーチストラテジーは、辞書の訳語どおり、「検索方法」と理解されているかもしれませんが、クリアランス調査や技術動向調査など、多様な目的の特許調査では、「検索方法」という解釈でなく、広範な「調査戦略」と捉える必要があります。
「Search」は、名詞でいえば、捜査、捜索、探索、検索、調査、探査、探求、追求、検査、であって、「調査」という包括的概念のうち、どちらかといえば、「探す」という意味であり、また、「Strategy」は、様々なニュアンスがありますが、目的達成の周到な戦略、策略、方略、言い換えれば、作戦を実行する方法を立案することでありますから、「サーチストラテジー」という言葉自体は、それらの結合された概念であります。
特許の世界で「サーチストラテジー」とは、探したい特許や文献を見つけ出すための方法を立案すること、すなわち、特許審査や特許無効調査においては、ターゲットとなる発明の特許性に影響を与える先行技術文献を探し出すための方法であり、また、特許侵害を予防するクリアランス調査(抵触可能性調査など)では、侵害する惧れのある特許を探し出すための方法を立案することであります。特許調査の目的は、他にもたくさんあり、それぞれの目的によって探し出す相手の特許は異なりますが、「ある特許」または「ある内容の特許のグループ」を探し出すための方法を立案することに変わりありません。
大方の辞書を引くと、「Search Strategy」の訳語は、「検索方法」となっていますが、「Search」の語が「探す」という概念であることを考えると妥当な面もあるものの、「検索」には「retrieval」の語があるため、特許の世界において、「検索方法」というと、データベースを検索するクエリを考えることと誤解されかねませんし、そのような意味において使用している人たちもたくさん見受けられます。
2005年の3極(日米欧)特許庁会合において、サーチツールとサーチストラテジーに関する3極の意見交換を促進していくことが確認され、それ以来、何回も協議が重ねられ、特許庁内では「サーチストラテジー」の言葉は慣用化しています。
工業所有権情報・研修館は、特許庁の検索外注業務を請け負う調査業務実施者に対する教材として発行の「検索実務」や「先行技術文献調査実務」おいて、「サーチ戦略」の説明がありますが、これらの説明においては、「サーチ戦略」の言葉は、発明の内容をどのように把握して、どのように検索するか、辞書どおりの「検索方法」の意味であります。
アメリカ特許庁においても、ウェブ上の「U.S. Patent Search Strategy」において、「検索方法」としての意味合いで用いられ、特定の技術に関連する特許を探すためのアメリカ特許分類の指定から特許の検索に至るまでの7つのステップを記載しています。
Searchという言葉が「検索」と訳されることなく、「探す」という意味で理解されるならば、「サーチストラテジー」の語は、特許の世界で使われる言葉にふさわしいところですが、特許審査以外の目的の調査の実態を考慮すると、「検索方法」の訳語はどうしても不似合いです。
特許調査においては、ターゲットとなる発明の特許性に影響を与える先行技術文献を探し出す特許審査や特許無効調査にかぎらず、むしろ、民間企業では、侵害する惧れのある特許を探し出すクリアランス調査(抵触可能性調査など)や、特定の技術分野に属する特許を包括的に抽出する技術動向調査が高い比重を占めています。民間企業のダイナミックな特許調査においては、データベースを検索する「検索方法」にとどまらず、目的達成のための包括的な調査戦略を考えることが必要であります。
たとえば、準備段階における調査目的の設定や調査タイプの決定から、対象となる特許の選択、リーガルステータス、データベースの選択、国際特許ファミリの調整、言語問題、検索方法などの全体的な枠組みを行なう調査設計、そして、特許の読み込みやスクリーニング、収集された特許の分析などの調査実行、データ処理などの後処理に至るまで、「検索方法」では片付けられない多くの問題への対応が必要になるからであります。
テクノ・コモンズでは、「サーチストラテジー」は、狭義の「検索方法」でなく、広義な「調査戦略」と捉え、調査目的に応じて、目的達成のための作戦を実行する方法を体系化しています。
この「サーチステラテジー講座」では、次回以降、調査戦略として、どのような事項を立案したらよいか、その戦略の立て方をシリーズでご紹介していきます。