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サーチストラテジー講座

第2回 調査設計編(①調査目的の決め方)
2016/11/08サーチストラテジー講座

 サーチストラテジーとは、調査目的に応じて、目的達成のための作戦を立てることですから、まず、第一にやることは調査目的を明らかにすることであります。調査設計編では、調査目的の決め方から、調査設計に必要な基本的な条件にいたるまで、以下の事項を順番に解説します。
  ① 調査目的の決め方(今回)
  ② 全体的な枠組み
  ③ データベースの選択
  ④ 対応特許の取り扱い

①調査目的の決め方

 特許調査は、調査目的によって設計条件も実行方法も異なるため、この目的との関係で、実施すべき調査のタイプを決めることであります。特許情報は、法律的な権利情報の側面と、技術開示の技術情報の側面の2つがありますが、調査目的から分類すると、代表的な調査タイプは以下のとおりであります。

 ①侵害可能性調査(特定のイ号製品がある場合)

 研究開発のターゲットが決まったとき、製品仕様の方向が決まったとき、あるいは、製造または販売を開始するときなど、具体的な製品または方法などの仕様や実施態様(たとえば、「イ号製品」などという。)が明らかになったとき、当該実施態様による第三者特許侵害のリスクを回避するため、関係する特許を読み込み、重要特許の有無および周辺特許の状況を含む特許クリアランスを明らかにし、特許侵害によって被る莫大な損害を未然に防止する。
 この調査では、権利情報として、特許存続期間(多くの国は出願日から20年間、特許延長制度のある国は、その延長期間)内の現に有効な特許のみを対象としてスクリーニングすればよいが、有効か否かの生死情報を容易に得られない国の特許の場合は、スクリーニング後、法的状況を調べる必要がある。
 スクリーニングにおいては、実施態様と同一の発明を請求する特許にかぎらず、実施態様の上位概念を請求する特許や、実施態様の一部のみを請求する特許も、その存在の有無を明らかにしなければならない。
 多くの場合、請求された発明のカテゴリー(「もの」の発明か、「方法」の発明かなど)は問わず、特許請求範囲に記載された発明を対象として取捨選択するが、審査未決の公開特許において、不当に広い簡略化された請求項(海外からの出願に多い)や、漠然とした請求項などの場合は明細書本文も判断対象である。
 特許クリアランス調査、侵害防止調査、抵触調査、FTO調査(Freedam to Operate)など、様々な呼び名がある。

 ②特許動向調査(イ号製品が明確になっていない場合)

 仕様や実施態様が明らかになっていない段階において、特定の技術分野をターゲットとして、通常は、権利情報と技術情報の両方の観点から、その分野に関係する広範な特許をスクリーニングする。
 研究開発の企画、新規製品の開発、または、製品仕様の決定などのプロジェクトの開始に先立ち、将来の目標設定のため、予定される技術分野に関係する特許を収集し、技術的なトレンドや競合企業の状況などの詳細分析を行ない、この分野の特許動向を明らかにし、プロジェクト計画の立案に役立つデータを得る。
 現に有効な特許に限らず、権利失効している特許も対象としたり、最近発行の特許のみなど、任意の期間の特許を対象とすることができる。
 収集された特許は、発明のカテゴリー、内容、課題、用途、使用材料など、様々な観点から作成された分類解析軸に基づき、各解析軸の技術区分を行なう。

 ③統計調査

 特許の読み込みによる詳細分析は行なわず、データベースに収録された特許データの定量的なマクロ分析により、特定の技術分野のマッピング、特定の出願人の状況、産学連携、企業間アライアンス、共同研究動向などを俯瞰する。
 特許動向調査と同じように、研究開発の企画、新規製品の開発、製品仕様の決定などのシーンにおいても実施されるが、競合企業の特許能力あるいは特許戦略を評価するため、出願件数、審査請求率、審判請求率、登録率、海外特許出願比率などの統計値を求めるときにもしばしば利用される。
 また、被引用特許数や引用特許数の分析による重要特許の探索にも利用されている。

 ④発明生産調査

 発明の発掘、発明の創造または動機付けのため、目標分野に関連する特許を読み込み、従来技術における技術的な課題、用途および発明内容を解析し、新しい課題解決の方向性を探る。

 ⑤事業化調査

 対象プロジェクトに係わる研究成果の実施化もしくは事業化に際して、特許侵害リスクの回避と、今後の特許戦略の構築のため、次のような複数の目的の調査を組み合わせて実行する。

① 研究成果の実施化もしくは事業化に関係する重要特許の有無および周辺特許の状況を含む特許クリアランスを明らかにする。(侵害可能性調査)
② 研究成果に係わる発明の新規性および進歩性に関連する先行技術文献を抽出し、この発明の特許可能性を明らかにする。(特許性調査)
③ 対象プロジェクトに関係する特許情報を収集し、この分野の技術的な動向(特許件数、時系列推移、出願人分布、技術マップなど)を明らかにする。(技術動向調査)

 ⑥特許無効調査

 特許侵害の警告を受けた、あるいは、訴訟を提起された、などの重要局面はもちろん、障害となりそうな特許を発見したときなど、相手の特許の無効化の可能性、または、現行請求範囲に対する限定解釈の可能性を明らかにする。
 主として、次の特許要件を備えているか否かの観点において調べる。

① 公知の刊行物に記載された発明に関する特許要件(新規性および進歩性、国よってはさらに有用性)(日本特許の場合は法29条1項および2項参照)
② 先願との関係についての特許要件(同一国の先行特許文献を調べる場合のみ)(日本特許の場合は法29条の2および39条項参照)
(日本特許法  http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S34/S34HO121.html

 上記①における「公知の刊行物」としては、相手の特許の出願日または優先日などのキーデート以前に発行された刊行物であれば、世界各国の特許文献および論文や雑誌などの非特許技術文献のいずれであってもよく、相手の特許の発明主題は、これらの文献中のどこに記載されていてもよいことはもちろんである。
 上記②の観点は、相手の特許と同じ国の特許文献に限られ、当該特許文献を引用する場合は、国よって、あるいは、適用する条文によって事情が異なるため、当該特許文献に係わる出願が係属中か否か、また、相手の特許の発明主題がどこに記載されているか否かを判断する必要がある。

 ⑦有効性確認調査

 自社特許による権利行使、実施許諾または譲渡の適格性を判断するため、特許無効調査とは反対に、自社特許の有効性を明らかにする。特許成立までの間に引用された先行技術文献の検証と、未引用の先行技術文献の探索とを行なう。
 特許無効調査と同様の特許要件の観点に加え、産業上の利用可能性、発明の有用性および公益的理由による特許無効理由がないか、明細書の記載不備、発明の単一性などの方式的理由による特許無効理由がないかの観点においても評価する。

 ⑧登録可能性調査

 特許侵害調査や特許定常監視において、将来障害となる特許出願を発見したとき、この特許出願の登録可能性、あるいは、現行請求範囲に対する変更または減縮の可能性を明らかする。特許無効調査と同じように、公知の特許文献や論文などの非特許技術文献とが対象となる。

 ⑨出願事前調査

 発明者から提案された未出願発明の特許性を明らかにする。産業上の利用可能性、発明の有用性および公益的理由による不特許事由がないかをチェックし、公知の刊行物に記載された発明に関する特許要件(新規性および進歩性)を備えているかを調べる。

 ⑩外国出願事前調査

 国内特許出願書類に記載された発明による外国特許の取得可能性を明らかにする。主に外国文献を中心に調べるが、特にアメリカ特許出願を行なうときは、先行技術文献の提出が義務付けられているため、この法的義務に対応する報告書の作成が必要である。

 ⑪規格化特許調査

 工業規格や業界標準による製品開発において、当該規格や業界標準にとって不可欠または選択的に使用される可能性のある自社特許を見つけ出し、コンソーシアムに対して登録可能な自社特許の候補を特定する。

 ⑫名義人指定調査

 特定の出願人名義の特許、または、特定の発明者に係わる特許を調べる。競合企業やライセンス設定の相手方などの保有する特許を調べたり、スカウト対象発明者の履歴を調べたり、様々な機会に利用される調査である。特許侵害可能性調査や特許無効調査などの各種の目的の調査を補完する補助的な調査手法として利用されることも多い。

 ⑬ファイルヒストリー(包袋)調査

 特定の特許の成立までの経過、または、係属中の特許出願の審査経過、審判経過などの関連書類を閲覧あるいは複写し、特許庁の見解や出願人の主張を考察して、禁反言による権利解釈、攻撃可能性などの評価を行なう。
 各国の特許庁係属事件にかぎらず、裁判所やITCなどの係属事件における手続き状況のウオッチにおいても実施する。

 ⑭リーガルステータス(法的状況)調査

 最近のデータベースの拡充に伴ない、日本特許やいくつかの国の特許の法的状況は、オンラインで調べることが可能となったが、多くの国の特許の法的状況は現地でなければ調べられないため、重要な侵害判断やライセンス決定に際しては、現地へ依頼することが必要になる。

 ⑮特許定常監視

 継続的な特許侵害リスクの回避と特許戦略の構築のため、特定の技術分野あるいは特定の出願人に関係する特許を所定の期間ごとに監視する。

 実施すべき調査タイプが決まれば、対象となる特許の選択、調査すべき期間、データベースの選択、国際特許ファミリの調整、検索方法などの全体的な枠組みを行ないますが、次回は、この枠組みについて解説する予定です。